研究内容

化石を実際に掘ってみると,化石が様々な情報を持っていることに気が付きます.化石になった生物は現在生きている生物にはない特徴を持っていることがあり,そこから,その特徴の進化がわかることがあります.また,化石の堆積物への埋まり方から,化石生物の生態を推定できることもあります.その他,化石の壊れ方,一緒に出てくる他の化石,累重した地層の中で対象の化石が見つかる範囲,なども重要な情報です.

私たちは,古生物(特に植物)の生物としての特徴を理解することを目指しています。しかし,私たちが解きたいことと化石が語り得る内容とは,しばしば一致しません.例えば,葉の組織の進化を推定したいと考えていたとしても,採れた葉化石の組織が残っているとは限りません.すると,「採れた化石からわかることを突き詰める」という姿勢もとても重要です.一方,化石が生物として持っていた特徴を推定するためには,現在生きている生物の特徴を深く知る必要があります.

このような背景を踏まえて,私たちは以下のような研究を最近行っています.

1)小葉類における根の進化

維管束植物の体は根・茎・葉からできています.しかし,シルル紀末に現れた初期の維管束植物は根と葉を持ちませんでした.根と葉ができるのは,維管束植物の主要な系統が分岐した後です.つまり,根と葉は維管束植物の様々な系統で独立に進化したことになります.

小葉類は維管束植物の中で最初に分岐したグループで,史上初めて根を獲得しました.しかし,小葉類における根の進化には大きな謎が2つあります.1つ目は「根の起源」です.私たちは,小葉類の根が茎から進化したという仮説を立て,それを現生小葉類の発生過程と化石記録とから検証する研究を行っています.

2つ目は,「小葉類は最初に根を獲得したにもかかわらず,なぜ繁栄できなかったのか?」です.根は地中から水や養分を吸収するのに特化した器官で,最初に根を獲得した植物は地中の資源を“独り占め”できたはずです.確かに小葉類は根を獲得した後,陸上の制覇に成功しました.しかし天下は長く続かず,少し遅れて根を獲得した種子植物に,すぐに覇権を奪われます.おそらく,種子植物の根の方が,何らかの点で優れていたのでしょう.私たちは「小葉類と種子植物の根は何が違うのか?」を明らかにしようとしています.

2)針葉樹における球果の進化

針葉樹の祖先は,葉腋(葉の表側と茎との間)に複数の種子をつける生殖シュートを持っていました.この生殖シュートの葉と葉との間の距離が縮まって,現在の針葉樹に見られるような球果(まつぼっくり)ができました.スギ科においては,このような球果がジュラ紀中頃までに出来上がっていましたが,白亜紀になると多様な球果が進化します.

白亜紀におけるスギ科の球果の化石記録を眺めてみると,時代とともに球果のサイズが小さくなる(=種子数が減る)グループがありそうです.また,球果が縮小するグループでは,球果の鱗片が厚くなる(=種子がより強固に守られる)傾向もありそうです.つまり,多産多死型から少産少死型への変化があったのかもしれません.

しかし,この直感が正しいことを確認するためには,化石記録が足りません.そこで私たちは,白亜紀のスギ科球果化石の収集と記載とを進めています.幸いなことに,北海道は,世界でも有数の白亜紀のスギ科化石の産地です.

3)超温暖化が引き起こした種分化・移動・絶滅

新生代の中で,暁新世〜始新世にかけてと中期中新世は特に地球の気温が温暖になり,それぞれ暁新世-始新世温暖化極大(Paleocene–Eocene Thermal Maximum: PETM)と中期中新世最温暖期(Middle Miocene Climatic Optimum: MMCO)と呼ばれています.気温を含む気候が変化したとき,生物には,i) 生息に適した場所に逃げる,ii) 新しい気候に適応する,ii) 絶滅する,の変化が起こり得ます.現在生きている生物の祖先はPETMやMMCOを乗り越えたはずですが,それらの温暖化イベントが現在の生物多様性に与えた影響はよくわかっていません.現生種と化石種との類縁関係が十分に理解されていないためです.

私たちは,新生代の化石種と現生種との類縁関係を解明することで,PETMやMMCOが生物の移動,種分化,絶滅に与えた影響を探ろうとしています.類縁推定は,個々の化石種に対して行う必要があり,一朝一夕にできることではありません.特に,現生の種間における系統関係自体が未解明の場合には,分子系統解析を合わせて行う必要もあります.大変な作業ですが,温暖化に対する生物の挙動を解明することは,将来の生物多様性を予想する基礎データとしても重要です.

4)日本の化石植物相の解明

「どの時代の地層から,何の化石が出てくるのか?」は古生物学における一次情報としてとても重要です.ところが,植物化石においては,それすらも未解明という状況が続いています.そもそもの原因は「植物化石を集める人が少ないから」ですが,「植物化石が見つかる地層の時代がよくわからない」ことも問題です.そこで,地層の時代を明らかにする研究(層序学)を行った上で,植物化石を収集する研究を進めています.

個別の研究内容については,研究成果に関する記事もご覧ください.