雪に愛されて大阪

和泉層群は四国北部から淡路島を経て大阪府南部へと分布する後期白亜紀の堆積物です.初めて和泉層群にふれたのは,大学1回生の頃でした.友人と2人で電車とバスを乗り継いで,さらに結構な距離を歩いたのち,泉州の某有名産地に辿り着きました.私たちは宿代と交通費を節約するため,露頭の端でキャンプしていたのですが,そこに化石パトロール中(注:産地に新しい化石が顔を出していないか見回る作業)のおじさんがやってきました.おじさんは私たちを哀れに思ったのか,食べ物とコーヒーをくれました.そして「困ったことがあったら言うてや」という優しいお言葉を残して去っていきました.「さすが人情の街,大阪」と思ったものです.

大学4回生の頃,再び同じ産地を訪れました.そのとき,露頭に掘っている途中の大きなナノナビス(赤貝に近い二枚貝類)が刺さっていたのですが,横には「トルナ」という”ルージュの伝言”がタガネで掘り込まれていました.伝言を掘り込んでるくらいなら,化石を掘り出せる気もするのですが,やんごとなき事情があったのでしょう.ともあれ,「この一言だけで化石が保護できるのか」と,いたく感心しました.これも義理と人情が織りなす大阪の伝統美かもしれません.

今回の調査地に落ちていたナノナビス

さて先日,大阪出張のついでに,和泉層群で軽く調査をしました.研究室の学生さんが白亜紀末の花粉化石を研究していて,そのサンプルが必要だったからです.しかし,泉州に着くと,結構雪が降っています.大阪に来てまで雪に出会えるなんて,わし,雪に好かれとるな,完全に….

雪降る泉州

少し歩いてみて気づいたのは,化石の多くは不整合面の上位の数十メートルまでの地層から見つかり,それより上位では化石が極端に少なくなることです.また,化石を多く含む層位と含まない層位とでは,生物擾乱(生物が堆積物をかき回した痕跡)の程度が明らかに異なっていて,化石を多く含む層位は激しく堆積構造が擾乱されています.擾乱が激しいのではっきりとは言えませんが,時折波打った葉理が見られたりするので,化石を含む層位の堆積物は波浪の影響下でたまったものでしょう.おそらく上位ほど堆積場の水深が深くなっていて,生物の生息に不向きになっていったのかもしれません.

ナノナビスの化石(矢頭)と生痕化石(星印).

そんなことを考えながら露頭を眺めていると,巻いたやつ(アンモナイト)の背中が顔を出していました.今にも母岩から外れそうですが,ボロボロなので固めないと壊れてしまいそうです.

そこで昔の心温まる出来事を思い出し,私も「調査中」というルージュの伝言をそっと残して,ボンドを買いに山を降りました.

強取角に添えたルージュの伝言.

大阪名物,バキバキバキュリや!(棒状のアンモナイトの住房がバキバキに折れて化石になっている)
こんな素敵なものが道端に転がっているなんて,大阪すげー!


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