ナカトンベツコウヨウザン

コウヨウザン属は,台湾からインドシナ半島にかけて現生するスギ科の針葉樹で,コウヨウザンとランダイスギの現生種が知られています.この属は白亜紀の初め頃には出現していたと予想されていますが,その頃の化石はコウヨウザン属だと言い切れる特徴が保存されていません.一方,コウヨウザン属であることが確実な最古の化石は,後期白亜紀(約7100万年前)の北米から見つかっています.

現生のランダイスギ

一般的に,針葉樹の球果(マツボックリ)は鱗片が集まってできています.鱗片は,種鱗と苞鱗とよばれる2枚の葉が癒合したものと考えられています.また,マツの仲間では種鱗が苞鱗よりも大きく,逆にスギの仲間では苞鱗が種鱗よりも大きくなります.コウヨウザン属の場合,球果はらせん状に並んだ鱗片からなり,種鱗の先端は3つに分かれ,それぞれの先に種子が着きます.

ダグラスファー(マツ科)の球果(左)とコウヨウザン(スギ科)の鱗片(右).コウヨウザンの種鱗の先は3つにわかれる.

私たちは最近,北海道枝幸郡中頓別町の後期白亜紀の地層(約7000万年前)から見つかった球果化石が,コウヨウザン属の新種であることに気づきました.

球果化石の断面(左)と3D復元像(右).

この化石は,現生のコウヨウザン属と同じく種鱗の先端が3つに分かれていましたが,苞鱗が現生種や他の化石種に比べて著しく厚いというユニークな特徴があったためです.そこで,この化石をナカトンベツコウヨウザン(Cunninghamia nakatonbetsuensis)として新種記載しました.

鱗片の断面.種鱗が3つにわかれている.

先に述べたように,鱗片は葉が変化したものです.そのため,後期三畳紀-ジュラ紀の針葉樹に見られた球果の鱗片は薄く,球果は縦長の形をしていました.しかし白亜紀になると,鱗片が分厚く,ずんぐりとした(=球に近い)球果が急増しました.これは,鱗片に抱かれる種子を守るためだったと考えられています.守る必要が増えた理由としては,動物に食べられる機会が増えたことや,山火事が増えたことなどが挙げられます.

鱗片が厚い場合と薄い場合の模式図.種鱗は省略.

ナカトンベツコウヨウザンに見られた分厚い鱗片は,このような時代背景を反映したものだったのかもしれません.一方,白亜紀のうちに分厚い鱗片を持つ球果を獲得したことは,針葉樹の”未来”にとって重要な意味を持った可能性があります.白亜紀末には隕石衝突で著しく陸上の環境が悪くなりました.そんなふざけた時代を生き残る“たっぽい”には(若い子にはわからないかも.Living in the eightiesの話ですもんね…),分厚い鱗片が役立ったかもしれません.

ご興味のある方は,ナカトンベツコウヨウザン後日談もご覧ください.

<詳しく知りたい方へ>

Jiang S. Y. et al. 2024. A new species of Cunninghamia (Cupressaceae) from the Upper Cretaceous (Maastrichtian) of Hokkaido, Japan. Phytotaxa 664. link


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